体験談『ラブホでJAFを呼んでしまった恥ずかしい話』

Shyrock作







 数年前の桜咲く頃、奈々子を乗せて花見に行った帰り道、陽が西に傾き始めていたが、どちらからともなくラブホに寄ろうということになった。
 クルマは国道1号線をひたすら西へ走り、やがて京橋駅周辺に到着した。
 桜ノ宮や生玉周辺に比べると規模は小さいが、京橋駅周辺にラブホが20軒程度ひしめいており、その中から奈々子好みのラブホをチョイスすることにした。
 しかし京橋界隈は大通りを1つ入ると道がかなり狭いうえに店舗の陳列や看板が道端に出っ張り、さらには自転車がずらりと違法駐輪し、その前をカップルが往来しているため、思った以上に神経を尖らせなければならなかった。
 ホテル探しよりも運転に気持ちが集中することは避けられず、ホテル探しは助手席に座っている奈々子の役目になっていた。

「あのホテルすご~くカワイイ~!ねえシャイ?あそこがいいよ~!」
「あそこってどのホテルのこと?」
「右側の奥の方に見えてるじゃん!あの白い壁の~!そう、あれあれ!」
「でも、その手前の四つ角から向うは一方通行になってて行けないんだよ~。ぐるっと廻らなきゃ」
「すぐそこに見えてるのになあ~」

 目的のラブホにたどり着くのに案外時間がかかり、ホテルに着いた頃はすっかり陽が暮れていた。

「やっと着いたわ~」
「意外と時間が掛かったなあ」
「何かおなか空いちゃった~」

 奈々子がそう呟きながらショルダーバッグを肩に掛けクルマから下りた。
 僕はエンジンを切りながら窓の外に見える奈々子の下半身を見つめた。
 ミニスカートから覗くスラリと長い脚がまぶしい。
 ガラス越しに奈々子の脚を眺めていると、彼女が腰を屈め微笑みながら呟いた。

「どこを見てるのよ~、エッチなんだから~」

 彼女の視線に、早くも燃え立つ己のよこしまな心を見透かされたようで、僕は照れ笑いを浮かべるしかなかった。

 僕は運転席のドアから車外に出た。
 ドアを閉める。

(バタンッ)

 奈々子が僕の腕に腕を絡めてきた。ラブホに入るときのいつもの仕草だ。

 次の瞬間、僕は鍵を挿し込んだままドアをロックしてしまったことに気づいた。

「わあっ~~~~~!!」
「ど、どうしたの?」
「鍵を、鍵を挿したままロックしてしまったぁ!!」
「そ、そんなぁ!!スペア持ってないの!?」
「いつもなら財布にもう1本鍵を入れてるんだけど今日に限ってぇ……し、しまったぁ~~~~!!」
「どうしよぉ……」
「針金があれば開くかも……いや、でもクルマに傷つくし……よし!」

 僕は奈々子とともに取り合えずフロントに行き事情を話した。
 フロントの女性は手に負えないと判断したのか奥から初老の男性を呼んだ。ホテルの経営者かマネージャーか、まあそのどちらかだろう。
 男性と話し合った結果、近くに車屋がないため、「JAF」を呼ぶことになった。
 
 JAFへはホテル側が連絡をしてくれた。
 来るまで30分ほど掛かるようだ。
 僕と奈々子がフロント前で呆然としていると、フロントの男性が声を掛けてきた。

「JAF来たら連絡しますから、部屋でゆっくりしててください」というと部屋の鍵をくれた。

 鍵を受取った僕たちはひとまず部屋で待つことにした。

 部屋に入った僕たちは上着も脱がずソファに腰を下ろした。
 楽しく過ごすはずのひとときが一転してとんでもないことになってしまった。
 まさかせっかくラブホまで来たのに、奈々子とこんな過ごし方をすることになるとは。 
 僕が「これは一生の不覚」とつぶやくと、奈々子はそれはちょっとオーバーだと笑った。
 かなり落胆していた僕ではあったが、奈々子の楽天的な明るさのお陰で少しは救われる気がした。

 さらにこの後、奈々子は意外なことをつぶやいた。

「シャイ、JAFはまだまだ来そうにないねえ」

 奈々子はホテル備え付けのコーヒーにポットの湯を注ぎ込み僕にくれた。

「うん、今日は日曜日だし道路が混んでいるかもね」
「来るまでエッチしようか?」
「えっ!こんな状況なのに!?」

 思いもよらない奈々子の言葉に、驚いた僕はコーヒーをこぼしそうになった。

「そ、それは、いくら何でもちょっと無理じゃないか?」
「あはは、何を動揺しているのよ。コーヒー揺れてるじゃん」

 とりあえず一旦カップをテーブルに置いてから話すことにした。

「でもエッチしてる最中にチャイム鳴ってもなあ……」
「それもそうね。JAF呼んでおきながら、私たちがなかなか現れないと変に思われるものねえ」
「ラブホからJAF呼ぶだけでもメチャ変だけど」
「確かにそうねえ」

(リリリ~ン、リリリ~ン!)

 その時、電話が鳴り響いた。
 電話はフロントからで、「JAFが来たので立ち会いしてくれ」というものであった。思っていたよりかなり早かった。
 立会いをホテルに任すわけにはいかないので、僕たちは駐車場へ向かうことにした。
 しかしふたりで行く必要もないため、僕が立ち会いをしている間奈々子は部屋にいれば良いと伝えたのだが、彼女は「私もいっしょに行く」といい後を着いてきた。
 駐車場にはJAFのふたりの担当者が待っていた。ふたりともかなり若い男性だ。
 きまりが悪かったが仕方がない。
 きまりが悪いのは僕たちだけではない。彼らもまた場所が場所だけにやりにくいだろう。
 まさかクルマの修理のためにラブホに来ることになるとは思ってもみなかったろう。

 僕はインロックしてしまった時の状況を彼らに説明した。
 頻繁に起きることなのだろうか、彼らはさほど珍しいことでもなさげに、僕の話にあいづちを打ちながら工具を取り出していた。



 修理はわずかな時間で終わった。

(これで1万円とは……)

 修理に掛かる時間は短い方が良いに決っているのだが、あまりにも短か過ぎると何かもったいないような気がするものである。

(人間とはまったく勝手なものだ)

 修理が完了しJAFは帰っていった。
 僕たちも部屋に戻ることにした。

 部屋に戻ってもなかなかテンションが上がらなかった。
 インロック事件のショックが尾を引いて、すぐには立ち直れそうにないようだ。
 奈々子自身も僕が落ち込んでいることを敏感に悟った。

「シャイ、お風呂に入る?」
「あ、まだ湯を張ってなかったよ」
「だいじょうぶ、さっきJAFが来る前に張っておいたから」
「へえ~よく気が利くね」
「うふ、じゃあ入ろうか」
「うん、入ろう」

 テンションが上がらない時は気分転換が一番。二人で風呂に入れば気分もきっと変わるだろう。
 浴槽でじゃれ合っているうちに僕のバッテリー徐々に充電されつつあった。
 目敏い奈々子は充電し始めた僕のバッテリーをぎゅっと握った。

(ムクムク、ムクムク……ムクムク、ムクムク……)

 僕も負けじと湯の中で揺らめく奈々子の黒い翳りにそっと触れた。
 奈々子のクリトリスも同様に固くなっていた。
 点火プラグに火のともった二人が座位で結合を果たしたのは、それからわずか10分後のことであった。














nanako









エッセイ集

トップページ




inserted by FC2 system