その年の大晦日しずかとは海が近いホテルで年越しを迎えることにした。
港で停泊する船や沖行く船が年越し時に一斉に汽笛を鳴らしカウントダウンするのを聞きたかったから。
午後11時過ぎにはふたりはベッドの中にいた。
年越しの汽笛を聞きながらふたりで過ごすのが目的だったから。
ちょうど年が変わった頃だったろうか、一戦交えた後その余韻に浸りのんびりとまどろんでいると……
どこからともなく女性のアノ時の引き攣ったような声が聞こえて来るではないか。
ここは一応ラグジュアリーなホテルである。
建物の間仕切壁の厚さは十分満たしているだろうし、遮音性能も悪くはないはずだ。
それでも声がはっきりと聞こえて来る。
「あぁっ……あぁぁぁん……」
つややかで切ない声、あれは間違いなくあの時の声。
隣だろうか?いやいや、おそらく上からだ。
はっきりはしないけど女性の声であることは確かだ。
「あれは……?」
「声がするね……」
しずかと僕は顔を見合わせて思わず苦笑した。
しずかがポツリとつぶやく。
「と言うことは、私たちの声も聞こえていたわけだね?」
「そういうことになるか」
「やだあ……」
「仕方ないじゃないか。大晦日にホテルでエッチしているカップルって結構多いと思うし、無意識のうちに大きな声が出てしまうことだってあるわけだから」
「そりゃあ、そうだけど……」
そんなふたりの会話を遮るように、またもや激しい声が聞こえて来た。
「あぁん……あんあん……あっ……」
当然だがアノ声は聞こえても会話までは聞こえない。
声が気になって眠れなくなってしまった。
僕の左手はいつしかしずかの胸元を触っていた。
その手はまたたく間に、先程堪能するくらいいじくった下半身へと移動した。
焦らすことなど忘れてしまってストレートにしずかの蜜壷を探っていた。
すると驚いたことに、しずかはすでにぐっしょりと濡れていた。
どこからか聞こえてくる悩ましい声に、ふたりはいつのまにか誘発されて昂っていた。
僕のモノもいつの間にか元気いっぱいに……
ビデオのリプレイを見るように、再びふたりの営みが始まった。
先程との違いは今度は少々愛撫が手荒なことだ。
蜜壷をこする指に力が入る。
「あぁっ、ちょっと強すぎるよ……」
しずかが口を尖がらせて僕をなじる。
僕たちは新年初めての夜明けに向かってアクセルをふかせた。
翌朝、ホテルの朝食はバイキングだった。
見渡してみるとやはりカップルが多い。
この中にきっと昨夜の声の主もいるはず、と思うと何だか可笑しくなった。
僕たちも同様に聞かれていたであろうことをすっかり忘れてしまって。
終
エッセイ集
トップページ